2022-11-13

Godin Multiac Grand Concert Deluxe

Godin(ゴダン)というのはカナダのギターメーカーで、極めてユニークかつ高品質な製品が特徴だ。基本的にアコースティック系の音を求める人にとって気になるブランドだと思うが、ゴダンのギターには、そこに非常に精密なエレクトリックなシステムが融合している。エレクトロニクスとアコースティックのハイブリッドだ。

メカニズムに関わる部分を大げさに言えば、通常のエレキギターはアンプの性能(鳴り)を出すためにピックアップの特性とボディが決まっており、通常のエレガットはボディの音(鳴り)をできるだけそのままマイクで拾って増幅することを目指しているとすれば、ゴダンのそれは少々異なる独特のアプローチだ。まず、生音で言えば、サウンドホールはないものの、基本的にガットギターの音と言った方が良い。しかし、そのままガットギターの音ではなく、ソリッドギター(さらにいえばテレキャス)の音が聴こえてくる。予想外の感覚だ。クラギの言い方で表現するならば、シダー系の素材で、乾いていて、芯のある響きが全フレットに感じられるが、そうはいっても高次倍音の反響の大きさで装飾しているようなところがない。反響おさえたムラのない音と言えるかもしれない。

だが、真に面白いのはエレクトロニクスとの融合の部分だ。ピックアップは、L.R.Baggsのカスタム仕様とされ、各弦ごとに独立したピエゾがセットされている。(実は、これにマイクサウンド、テープサチュレーション、フェーズコントローラーが含まれている。)ようはボディの音響特性に合わせたカスタムピックアップを各弦ごとにセットしているのだ。これにより各弦の干渉を避け、GR-55等のギターシンセとの誤動作を抑えることができるとされているが、そもそもこのギターの最大の特徴は気を衒ったギターシンセではなく、最速のレスポンスと、クオリティの高いキャラクターの味付けと、非常に歯切れの良いバランスを実現していることだ。それゆえ、アンプのキャラクターで味付けすることを前提とせずに成立する。今の段階で、エレクトロ・アコースティックと真に言えるギターはゴダンだと思う。

とまあ、少し紹介をしてみた。今回、縁があって、
Godin Multiac Grand Concert Deluxe (2021) を買った。

もともと私はクラシックギターを弾くのだが、クラシックギターを買い替えたかったのでもなく、あるいはエレガットを欲しかったのでもない。直接の発端は、Yamaha SLG 200NM(サイレントギター)を手放したいと思っていたことだった。練習用に持っていたこのギター、実は嫌いだった。言い出すとキリがないのだが、まとめてみたい。Yamaha SLG 200NMをクラギの練習用に手に入れようかと悩んでいる人がいたら参考にしてほしい。(なお、クラギのつもりでないならば、良いギターだと思う。要は目的次第である。)
  • ボディの重心がはっきりしない(その割に重い)。自分の体とのフィッティングが悪い。
  • ボディの位置を安定させるために、無理な姿勢をしたり、体に押し付けるようになる。
  • 木製の枠の部分に謎のカーブがあり、脇腹とかお腹に食い込んで痛い。
  • しかしボディが反響せず、ヘッドフォンとしないと音が聞き取れないので練習にならない。
  • ヘッドフォンを使っては耳が疲れるので、長時間練習する気になれない。
つまり練習を阻害する要因だらけなのである。おそらく小さいこと、サイレントなこと、アンプに繋げればライブに使えることという、3つを同時に実現することを狙ったのだと思うが、正直言って製品として矛盾していると思う。

そんなわけでYamaha SLG 200NMについて悩んでいたのであるが、そんなときにGodin Multiac Grand Concert Deluxeを見つけたというわけである。そう、実は上で書いたような「エレクトロニクス」については、そもそもそれほど重視しておらず、練習用のギターとして、サイレントギターを探していたのであった。

私にとって良い楽器とは、最低限、以下のことが重要である。
  • その楽器で演奏可能な各音域について、ピッチやレスポンスに破綻がないこと。
  • サウンドキャラクターの変化について、コントール性があること。
  • 音域や奏法上の限界点を、ある種の心地よいレスポンスとして教えてくれること。
  • 演奏者の身体との間にアフォーダンスの関係があること。
  • 演奏者の体にフィットすること。ポジショニングができること。
Godin Multiac Grand Concert Deluxeにはこれらが備わっている。クラギの練習用のつもりだったが、すごく魅力的なギターで、非常に驚いている。







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