2013-03-01

About Wordfast


今回は趣向を変えてWordfastについて書いてみます。

Wordfastは翻訳支援ソフトと呼ばれるもので、海外では非常に大きな勢力になっていたり、性能が良かったりするのですが、その割には日本ではほとんど知られていないので、もったいないなあと思っていました。なので、この機会にちょっと紹介できればと思います。

日本で翻訳支援ソフトで主流なものといえば、なによりもまずTradosでしょう。これは事実上のデファクトスタンダードとなっているおり、その他のソフトは当然ながら、Tradosが比較考察の対象となります。

Trados以外のソフトで、私が知っている(そして、少なくとも多少は触ったことがあるのは)、TratoolMemoQOmegaTTrans-AssistDeja-vuSDLXCatalystWordfast、旧I社のworldserverL社のLogoportあたりでしょうか。Tradosについては、2007以前と以後で、ほぼ別のソフトというべき状態なので、分けて考えた方が良いです。もちろん、全てのソフトに一長一短があります。


いくつかのソフトについて私の雑感を書いてみます。(あくまでも私見です。)

Tratool
おそらくこの分野では唯一のまともに動作する純国産ソフト。感覚的に言うならばSDLXの機能劣化版。シンプルな構成は好感が持てる半面、画面のナビゲーションやインタフェースがいかにも国産的でバタ臭い。機能面では、通常のTM上のセンテンスサーチに加えて、Tratool固有のフレーズサーチという機能が付いている。これは若干興味を引くが、多分あまり使わないだろう。残念ながら、Tratoolでは、(私の知る限り)ターゲット文書を強制的にtxtにする必要がある。もしいまだにそのレベルであれば、その時点で実用には適さない。

MemoQ
ネットワーク的な作業が前提となっている。設計も新しい。サポートや機能が十分にこなれているのであれば、翻訳会社が全面的に導入するという選択肢もあるかもしれないが、価格がネックか。開発やサポート動向の不透明感あり。

OmegaT
メリットは、無料であることと、Javaであることのみ。翻訳ソフトであることを忘れて、コンコーダンス機能を使って、自分用のTMX検索用ソフトのように使うことができるが、逆にいえば、それぐらいしか使用価値を思い浮かぶことができない

SDLX
事実上開発終了し、SDL Tradosとなった。さようなら。

worldserver
最悪のインタフェースで翻訳者にとっては悪夢じゃないだろうか。たしかにソースクライアント的には集中管理ができそうなインプレッションがあるので導入してみたいという誘惑に駆られるだろう。しかし、上手く使えないものを使っては翻訳文の品質も落ちるという明白な事実に、この高価なシステムはいったい誰得?と思わざるを得ない。営業がわざわざ使いにくいものを上手に売っただけという印象。せめて翻訳インタフェースがTrados Studioぐらいになれば大化けする可能性もあるが、それはないだろうな。(なぜならば同じくSDL社のTradosが売れなくなることを意味するから。)いずれにしても大企業向けのシステムであり、翻訳者レベルでは考慮する対象では全くない。

Logoport
当初からネットワーク対応を図った動作概念や、サーバーTMを翻訳者用、校閲者用に分けることなど、当初斬新に思えた。しかし動作はもっさりしていた。LogoportTWに変わった以後はほとんど触ったことがないので、現在の状況はよく知らないが、いろいろな意味でTradosより優れていると感じた点が多々あった。ただ個人が触っても、ほとんどの機能の意味も良く分からないだろうし、無意味であったりする。また、少なくとも当時は背後でWord.dotファイルを使って動作しており、いまや翻訳ソフトとしてはあり得ない過去の設計。なにより、TMの置き場所がL社の管理下に置かれるという時点でほとんどL社以外にとっては意味の無い存在。いろいろな意味でL社の社内ツールでしかない。

Catalyst
ソフトウェア・ローカライズでUser Interfaceをやる人以外は手を出さないでよい。

Trados 2007以前
いかんせん設計には古さが目立つが、日本の翻訳業界ではまだまだ現役の存在 -- なぜならばバージョンアップにSDLにおカネを出すことに業界全体が辟易しているから。つまり後ろ向きな理由で生き残っているというのが、ちょっと切ない。ちょっとまえの日本語DTP業界のQuark 3.xのガラパゴス状況みたいだ。強いて言えば、FrameMakerファイルの処理については、Trados 2007 TagEditorを使ったワークフローが確立してしまっているので、そこはもうしばらく生き残るのではないだろうか。また、Trados Studioに移行したくなく、その他に選択肢の無い翻訳会社もTrados 2007を使い続けるしかないであろう。(でも最新のdocxxlsxTrados 2007で処理するなんて恐ろしくてできません。)逆にいえば、個人翻訳者にとっては2007を捨てずにHDに残しておくメリットはもうしばらくあります。くれぐれもTrados Studioにアップグレードするついでに削除してしまったりしないように!

Trados 2007以後
Trados Studioと名称を変えて再出発した。Tradosと名を売っているが、実際はSDLXにそっくり。SDL社はTrados社を買収したわけだが、実際にはそれによってTradosという存在を市場から封殺してSDLXにしたんだ、-- というのが私の印象。ファイルフォーマットも違う、ワークフローも違う、なにやらソフトが肥大化している、Adobeみたいに隔年バージョンアップでお金を取られる。当然業界は騒然としてだれもTrados Studioには手を出さずにTrados 2007を使い続けることを選択した。そしてSDL社は、Trados Studioへの移行プランをあれやこれやと提案する。というがこの5年ぐらいの状況では?

Trados Studioを使うということは、今後数年間、経常利益のうち一定割合を 年金のごとく-- SDLに支払い続けるということを意味します。それを肯定できる翻訳会社はあまりないでしょう。ソースクライアントにとっては、特に、さいきん翻訳部署を立ち上げました!的な人たちにとっては、そこまでの認識はないことが普通です。大手企業であっても、翻訳担当室の担当者、またはその周囲にいる数名の人の分だけライセンスを購入するのがほとんどだと思います。それならばあまり問題はありません。しかし翻訳会社にとってはこれがまた厄介です。登録翻訳者が50名や100名いたら、その人の分だけライセンスを準備するのでしょうか?もちろん、そんなことはありえません。(当然何とかするでしょうが。)では、肝心の機能強化はどうでしょうか? 強いて言えばTMの「コンテキスト・マッチ」に関わる機能は良い方向に向かっていると感じますが、まともに動作するかどうかは全く別問題です。いずれにせよ非生産的マターがおおく、それらはコストダウンにも翻訳レベルにもメリットはあまりありません

ではWordfastは?

性能のバランスが良いです。Trados Studioと同レベルの機能とインタフェースを有しているし、ネットワークも前提としている。PM機能も充実している(Trados Studioのように無駄/余計な機能で複雑になっていません)。操作体系はシンプルで、現時点で最も洗練されているソフトの一つでしょう。MS Office系のファイル形式はほとんど問題なく処理できます。開発力もしっかりしている(日本語開発力という点ではやや不明かも)。しかもMac/Unix版がそろっているのは、OmegaTWordfastだけではないだろうか?

そして、OmegaTのようなフリーウェアを除けば、おそらくもっとも安い。

ではデメリットは何かないだろうか?
最大のデメリットははっきりと分かります。それは、FrameMakerIndesignの内部タグが扱いづらいことです。これだけは、すでに確立しているTrados系のワークフローほど効率よく作業できないでしょう。FrameMakerIndesginのプロジェクトが多発している場合は、Wordfastを第1選択候補にしないほうが良いと思います。(少なくとも現時点では。)

次のデメリットは、Tradosに慣れ過ぎてしまっていることによる恐れでしょうか。また、日本語処理の"こなれ"という部分では、私の感じる範囲ではTradosに一日の長があります。


とまあそういう訳で、ざっくりと結論を言うと

・使い物にならなくても、0円がよい個人
  →OmegaT
・安くて普通のものが良い人、翻訳会社からTradosを指定されていない個人
  →Wordfast
・Mac / Unixな人
  →Wordfast
・すでにTrados 2007をもっており、それを変えたくない翻訳会社
  →そのままTrados 2007を使ってください
・高くて複雑なものが良い人、翻訳会社からTradosを指定された個人
  →最新版のTrados
・上記のいずれの選択肢にも違和感を感じる人
  →MemoQかなあ?

(自分で開発する、という選択肢はなしの前提で。)

です。(以上)